研究組織・メンバー
A03:中脳辺縁系-大脳皮質間の機能連関による意欲と身体運動の並列処理機構の解明
研究代表者
西村幸男
公益財団法人東京都医学総合研究所 認知症・高次脳機能研究分野
脳機能再建プロジェクト・プロジェクトリーダー
WEBhttp://www.igakuken.or.jp/project/detail/neuroprosth.html
紹介文本文
私たちの行動は心の状態によって左右される。例えば、トップアスリートは並外れた身体能力だけでなく、高い意欲を持ち合わせおり、心理的限界から肉体的限界にまでパフォーマンスを引き上げることができる。しかし、精神状態とパフォーマンスとの間の因果関係を説明する神経科学的根拠については未だ不明である。これまで、我々は脊髄損傷モデルのサルを用いて、その回復過程において、運動麻痺によって運動遂行が困難な時期に、意欲を生み出す中脳辺縁系が運動を制御する一次運動野の活動を作り出し、指の運動を作り出していることを明らかにしている(Sawada et al, 2015, Science)。
本研究では、この意欲を制御する中脳辺縁系と、それに支配される運動を司る大脳皮質運動関連領野の間に存在する多領域脳内連関を、ヒトとモデル動物を対象とした実験で解明することを目指す。ヒトを用いた研究では、意欲などの内観報告が可能であること、また社会的要因を実験的に検討できることの強みがある。一方、モデル動物を用いた実験は、神経活動の詳細な検討、および神経活動と行動の因果関係が検討可能である強みを持つ。
本研究では、それぞれの実験系の強みを活かして、中脳辺縁系を意欲と運動パフォーマンスを同時に制御可能な起源であると仮説を立て、その仮説を社会心理学、神経生理学・神経計算学などの手法により多角的に検討する。ヒトでは社会心理学的手法により精神状態を制御し、それによって起こる中脳辺縁系の神経活動と精神状態、運動パフォーマンスの関係を明らかにする。更に、モデル動物において中脳辺縁系の神経活動操作を行い、中脳辺縁系によって制御される運動関連領域を含む多領域の神経活動動態と運動パフォーマンスとの因果関係を明らかにする。
文献
- Sawada M, Kato K, Kunieda T, Mikuni N, Miyamoto S, Onoe H, Isa T, Nishimura Y. (2015)
Function of nucleus accumbens in motor control during recovery after spinal cord injury.
SCIENCE. Vol. 350: no. 6256 pp. 98-101, DOI:10.1126/science. aab3825. - Nishimura Y, Perlmutter SI, Ryan WE, Fetz EE. (2013)
Spike-timing dependent plasticity in primate corticospinal connections induced during free behavior.
NEURON. 80(5): 1301-9. Doi: 10.1016/j.neuron.2013.08.028. - Nishimura Y, Onoe H, Onoe K, Morichika Y, Tsukada H, Isa T. (2011)
Neural substrates for the motivational regulation of motor recovery after spinal cord injury.
PLoS One. 6(9): e24854. Doi: 10.1371/journal.pone.0024854. - Nishimura Y, Onoe H, Morichika Y, Perfiliev S, Tsukada H, Isa T. (2007)
Time-dependent central compensatory mechanisms of finger dexterity after spinal cord injury. SCIENCE. 318(5853): 1150-5.