研究組織・メンバー

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A02:脳内局所環境因子の多変量計測・制御による記憶・情動解析

研究代表者
松井 広・東北大学大学院生命科学研究科・教授
WEBhttp://www.ims.med.tohoku.ac.jp/matsui/

紹介文本文

ひとつの脳であっても、その時々の脳内環境次第で、情報処理モードは大きく異なる。例えば、集中して学習の準備が整った状態、あるいは、ストレス下において不安様行動が表出している状態。これらのステート間では、脳内回路(ワイヤリング)自体には何の違いもないはずだが、脳の情報処理の動態は全く異なる。脳内局所環境は刻々と変化していて、その時々で、神経系の果たすべきタスクに最適化された状態になっていると考えられる。本研究者は、これまで、定常的な伝達物質濃度の多寡、あるいは、乳酸等の代謝産物濃度の一過性の変動次第で、神経系の動作ががらりと変わることを示しており、この脳内局所環境を制御しているのは、神経細胞とは異なるグリア細胞であると考えている。本研究では、生きているマウス脳内に、新規開発の多機能光ファイバーを刺し入れ、グリア細胞からの伝達物質放出を制御する因子としての細胞内pH、Ca2+を蛍光ライブ計測するとともに、グリア細胞・神経細胞の伝達物質産生能を握っている、乳酸・ピルビン酸・ATP等の代謝産物の流れを、新規開発のFRET蛍光分子を使ってモニターする。さらに、同ファイバーを通してグリア細胞に発現させたChR2、ArchT等の光遺伝学分子を光操作する方法で、グリア細胞からの働きかけがどのように神経活動に影響を与えるのかの因果関係を調べる。本研究で特に注目するのは、記憶と情動の回路である。恐怖記憶が定着する時、あるいは、不安様行動が誘発される時、脳内で変化するグリア細胞の働きを、海馬・扁桃体・前頭前野等のそれぞれの箇所で、多変量計測で調べる。本領域に参画することで、脳内局所環境を決めるメカニズムを解明し、将来的には、オンデマンドで脳情報動態を操作し、脳病態を治療する技術を通して、社会・国民に貢献したい。

図1 光計測・光操作法によるグリア-神経細胞間相互作用の多変量解析

文献

  1. Beppu K, Sasaki T, Tanaka KF, Yamanaka A, Fukazawa Y, Shigemoto R, Matsui K (2014)
    Optogenetic countering of glial acidosis suppresses glial glutamate release and ischemic brain damage.
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  2. Kanemaru K, Sekiya H, Xu M, Satoh K, Kitajima N, Yoshida K, Okubo Y, Sasaki T, Moritoh S, Hasuwa H, Mimura M, Horikawa K, Matsui K, Nagai T, Iino M, Tanaka KF (2014)
    In vivo visualization of subtle, transient, and local activity of astrocytes using an ultrasensitive Ca2+ indicator.
    Cell Reports. 8: 311-318.
  3. Budisantoso T, Harada H, Kamasawa N, Fukazawa Y, Shigemoto R, Matsui K (2013)
    Evaluation of glutamate concentration transient in the synaptic cleft of the rat calyx of Held.
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  4. Sasaki T, Beppu K, Tanaka KF, Fukazawa Y, Shigemoto R, Matsui K (2012)
    Application of an optogenetic byway for perturbing neuronal activity via glial photostimulation.
    Proc Natl Acad Sci U S A. 109: 20720–20725.

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