研究組織・メンバー
A01:前障と大脳皮質多領野間の構造的・機能的結合を介した脳情報動態機構の解明
研究代表者
吉原良浩
理化学研究所 脳神経科学研究センター システム分子行動学研究チーム・
チームリーダー
WEBhttp://www.riken.jp/research/labs/cbs/sys_mol_etholo/
紹介文本文
前障(Claustrum)は哺乳類の大脳皮質と線条体に挟まれた薄いシート状の神経核様構造である。古典的な軸索トレーシング実験によって、前障は大脳皮質のほぼすべての領野と双方向的な神経接続を有すると報告されている。この解剖学的知見を基にして、2005年にCrickとKochは、前障があたかもオーケストラの指揮者のように、大脳皮質各領野の興奮・静止状態を大局的にコントロールする『意識の中枢』であるという大胆な仮説を発表した。また他の研究者たちは前障の機能として、多種感覚情報の統合・選択的注意の割り当て・皮質オシレーションの制御などの可能性を提唱している。しかしながら、前障の複雑かつ不規則な構造、マーカー分子・有用遺伝子ツールの欠如などが障壁となり、これら仮説の実験的検証は未だ成されていない。すなわち前障は、その機能が全く明らかにされていない未踏の脳領域である。
私たちは最近、前障ニューロン特異的にDNA組換え酵素Creを発現するトランスジェニックマウス系統(Cla-Creマウス)の樹立に成功し、前障ニューロンの遺伝学的可視化・活動制御が可能となった(論文投稿中)。本研究では、遺伝学・神経解剖学・生理学・神経行動学など多様な実験手法を統合的に組み合わせ、大脳皮質の多領野間情報動態・並列処理における前障の機能解明に挑む。具体的には、1)前障−大脳皮質間の機能的結合の網羅的マッピング、2)前障ニューロンの活動制御による大脳皮質多領野間の情報動態・並列処理の変化の電気生理学的解析、3)高次脳機能を反映する行動課題における前障活動操作マウスの表現型解析、に取り組む。
文献
- Narikiyo K, Mizuguchi R, Ajima A, Mitsui S, Shiozaki M, Hamanaka H, Johansen JP, Mori K, Yoshihara Y. The claustrum coordinates cortical slow-wave activity.(投稿中)
- Koide T, Yabuki Y, Yoshihara Y. (2018) Terminal nerve GnRH3 neurons mediate slow avoidance from carbon dioxide in larval zebrafish. Cell Reports. 22: 1115-1123
- Wakisaka N, Miyasaka N, Koide T, Masuda M, Hiraki-Kajiyama T, Yoshihara Y. (2017) An adenosine receptor for olfaction in fish. Current Biology. 27: 1437-1447
- Yabuki Y, Koide T, Miyasaka N, Wakisaka N, Masuda M, Ohkura M, Nakai J, Tsuge K. Tsuchiya S, Sugimoto Y, Yoshihara Y. (2016) Olfactory receptor for prostaglandin F2α mediates male fish courtship behavior. Nature Neuroscience. 19: 897-904