研究組織・メンバー

研究組織・メンバー

A01:海馬から歯状回へのリバース伝播にみる情報連関とその動態

研究代表者
池谷裕二・東京大学大学院薬学系研究科・教授
WEBhttp://www.yakusaku.jp/

紹介文本文

海馬体は記憶や学習を司る脳部位であり、主にCA1野やCA3野などの海馬、および歯状回などから構成される。嗅内皮質から海馬体へ情報が伝達されるとき、その情報が海馬内へ伝播される前に、歯状回において情報の処理が行われる。歯状回では、少数の顆粒細胞に分散化された発火によって情報が符号化される、いわゆるスパースコーディングが生じている。スパースコーディングは、情報の微妙な差異を細分化するパターン分離と呼ばれる重要な脳機能の神経基盤となっている。しかし、これらの概念は、あくまでも発火活動という指標によって細胞集団レベルの挙動を捉えることで提唱されてきた仮説であり、発火に至らない閾値下膜電位のダイナミクスを記述した知見はない。すなわち、スパースコーディングを生み出す局所神経回路の情報動態が明らかにされていないだけでなく、閾値下の情報処理ではスパースコーディングとは異なる新奇な現象が見られる可能性もある。
私たちはこれまでに、記憶情報を有するsharp wave / ripple(SW)という脳波が、CA3野から歯状回に伝達される現象(リバース伝播)に着目して、二領域間の情報処理機構を明らかにすることを試みてきた。本研究では、SWによってリバースに伝播する情報は、両領域の間に散在する苔状細胞に収束し、その後、顆粒細胞へ分散して出力することで、顆粒細胞のスパースな発火を促すという仮説を提唱する。

文献

  1. Norimoto, H., Makino, K., Gao, M., Shikano, Y., Okamoto, K., Ishikawa, T., Sasaki, T., Hioki, H., Fujisawa, S., and Ikegaya, Y.
    Hippocampal ripples down-regulate synapses.
    Science, 359:1524-1527, 2018.
  2. Mizunuma, M., Norimoto, H., Tao, K., Egawa, T., Hanaoka, K., Sakaguchi, T., Hioki, H., Kaneko, T., Yamaguchi, S., Nagano, T., Matsuki, N., and Ikegaya, Y.
    Unbalanced excitability underlies offline reactivation of behaviorally activated neurons.
    Nature Neuroscience, 17:503-505, 2014.
  3. Takahashi, N., Kitamura, K., Matsuo, N., Mayford, M., Kano, M., Matsuki, N., and Ikegaya, Y. Locally synchronized synaptic inputs.
    Science, 335:353-356, 2012.
  4. Sasaki, T., Matsuki, N., and Ikegaya, Y.
    Action-potential modulation during axonal conduction.
    Science, 311:599-601, 2011.

このページの先頭へ